2011年7月8日金曜日

「葬神記 考古探偵一法師全の慧眼」化野燐

怜悧な頭脳とカミソリのような態度。一法師全は私設研究所に所属する文化財専門のトラブル・シューターで“考古探偵”の異名を持つ。アルバイトの古屋は遺跡の発掘現場で運悪く死体を発見して警察に連行されてしまう。“ぬかとさま”の崇りという噂が一人歩きをはじめる中、教育委員会から依頼を受けた一法師の登場によって事件は解決するかに見えたが、それは始まりに過ぎなかった。考古学ライトミステリ、シリーズ第1弾。
 この作者の本は別シリーズを少し読んでたんだけども(そしてあんまり合わなかった)、考古学探偵…ということでこれをオススメされて借りて読みました。というか、一度読んでみて、と言われた。勧めてくれた本人は微妙だったみたいだけども…え、フツーに面白かったよ。そりゃ「得体の知れない存在」は出てくるけど、そんなムチャなモノや学説とかは出てこないし。ホラーミステリーに考古学がうまい具合に融合してるなーと。うん、フツーに面白かった。
 でも、これを広告のとおり「考古学ミステリ」だとか「ミステリ」だと思って読むとがっかりするかも。あくまで「ライト」もしくは「ホラーミステリ」くらいの感覚。
 以下トリックのネタバレもあるよ。

 まずなんにしてもね、死体が発掘現場の土壙で発見される訳ですよ。それも鋳造遺構(発掘現場が鋳造遺跡)の焼土壙で。凄い想像しやすい。
 現場の様子も、補助員さんと作業員さんがやってる測量とかガリかけとか、土器洗いとか、接合やら実測やら…あーうんうん解る解る! っていうか。こういう言い方は上から目線になるけど、ちらっと考古学が出てくるこれまで読んだ本に比べて、実情というか、実際の現場が取材されてるなぁ、っていう印象。…逆に私は見慣れたものがたくさん出てくるからさらっと流して(想像して)進めてたけど、想像できないとイミフなのかな…とも。行政と現場の様子とかも、そりゃいきなりさっくり書かれたらイミフかもな…。
 学説とかにしても、民族学、民俗学的な事は解らんけど、既存の学説に真っ向から立ち向かうようなものではなく、ホントに軽く流せる。神代文字とかなんちゃら文書とかそういう存在に一切頼ってないというか。潔いというか、とても読みやすい。
 話の筋として出て来る鋳型はとりべのような色合いで思って読んでました。他にも緑青とか、ナイフ型石器だとか、わりと身近な存在が出てくるからすごく読みやすい。展示室の間取りやガラスケースにしても、想像しやすい。事件現場になってる発掘調査現場にしても、なんとなくの描写から○○遺跡みたいな立地かなーとか、鋳造遺構なら○○遺跡みたいな土壙かな、とか。マネキンが並んだ時系列展示ならどこそこの博物館もそんなんやったな、とか。
 あと、ネット上での拡散や、集団ヒステリーや、携帯端末を手にして多数派になった若者の暴走っぷりとか、過剰なのにリアリティが凄い。ネット上にはこれと似たことが割と日常的に(毎日ではないけど)起こっては消えてる気がする。いわゆる「祭」みたいな…。けど、オウム真理教事件の時に今みたいなネット環境があったら、あの松本に集まった野次馬がみんな携帯カメラで取りまくってWebにリアタイで投稿しまくってたんだろうな…と思うと、確かに大げさに描かれてはいるけど、とてもリアル。
 そういう後味の悪さというか、すっきりとした解決でめでたしめでたし! …ってのではないけど、凄い面白かった。二冊目も買ってきたから早々に読みたい。

 で、だ。

 結局主人公って誰ぞ? っていう。探偵役が気まぐれなのはまぁよくあることだわ。けど主人公が…主人公らしくないのもまぁよくあることだわ。…っていうかこの人が主人公でいいのん? っていう気が時々…。キャラ立ちが不十分とか、書き込みが足りない、とかあるけど、「本格ミステリ」と思っては読まなかったから全然気にならなかった。…っていうかそもそも「ミステリ」ともあんまり思ってなかった…だって先にこの作者の本は「蠱猫」を読んでるから。カカ=蛇の所ではちょっと三津田信三を思い出した。「厭物~」ではその単語が沢山出てきたから。
 だからあくまでこれは「本格ミステリ」でもなければ、純粋な「ミステリ」でもない。「ホラーミステリ」っていうジャンルがあるのかもわからんけど私はそれだと思う。人智を超えた理解不能な存在は確かにそこにあるんだけど、でも実際に人を殺したり危害を加えるのはあくまで生身の人間、っていう。全部が全部「人外」の仕業じゃない。…三津田信三にハマってからそういうの読み始めたんだけど全部「人外」のせいってするのと違ってある程度納得と、薄気味悪さが残って楽しい。

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